藁と籾殻を貰って来い、と祖母から命じられた。なので、
隣の大叔母(祖母の妹85歳)さんの家に一輪車を押して行く。
大叔母さんちに着くと、丁度縁側で大叔母&大叔父(91歳:認知症)が
マッタリ新聞を読んでくつろいでいる。大叔母さんにはちょっとお世辞も
入れて世間話と祖母の近況を話す。で、大叔父には何を話しかけても
無反応。しかし、大叔母さんが聞こえない大きさで
「明日、下午 到 大連。」や「中国姑娘、一発多少銭?」「小日本鬼子
3个人 死刑了!」など中国語を耳元で囁いてやる。実は大叔父は終戦の
2年前まで中国に派兵されていたから。帰国後、中国のことは思い出したく
ない!と言ってたがボケてしまうと隙が出てしまう。私の中国語に
ソワソワと反応する大叔父。一体中国で何をして来た?死ぬ前に
ヒントだけでいいから教えてよ大叔父さん
無駄話を適当に切上げて、藁と籾殻を一輪車に乗せて元来た道を
帰る。道中、リーマン君との妄想をしていたが、とある田んぼの前に
来た時に25年前の出来事が浮かんで来た。
当時10歳だった私は、さんざん遊んでいつものようにママチャリで
農道を家に向かって走っていると、突然横から泥と草の切れ端まみれの
おっさんが飛び出して来た。慌ててブレーキを踏んだがおっさんに
当たってしまった。青くなる私におっさんは「車がたんぼに落ちてしもうてん。靴も財布もどっかに飛んでいってん。助けて…。」と私のママチャリの
ハンドルを掴んで話さない。絶対、人さらいだと思ったが本当に穴の空いた靴下で踏ん張り、パニクる私にフルネームで真剣に説得し出すので
仕方なくママチャリのろ漕ぎで家に連れて行った。
そしたらウチの母は「そんなに泥だらけで入ってもらっては困ります!」とキツい口調で押し切り、おっさんを家の前でブリーフ一丁にさせて
ホースでおっさんを水洗い。確か10月か11月の
日がどっぷりと暮れていた時だったと思う。おっさんがブルブル震えて
ブリーフ一丁でウホォーとか情けない声で頭や手足を擦って、鼻水を
たらしながらも「済みません」「ありがとうございます。」と母と祖母に
ペコペコするのを見て
「困っている人に別に優しくしないであんな風にしていいんだ~
」
10歳の少女にとっては衝撃の事実、大人の世界を知ってしまった瞬間で
した。
その後、おっさんだと思ってたら、車を田んぼに転落させた人は
20歳の大学生だと両親から聞かされ、バーモンドカレーの
西城秀樹よりも若いと言う事実に2度目のショックを受けたのでした。
だから困ったリーマン君を見たら助けると言う名目で
キツい命令口調になったり、むやみやたらと服を脱ぐことを
要求するようになりました。